暗記をいつやるか

投稿日: カテゴリー: コラム
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長年 東海生を指導してきて思うのですが、彼らは「コツコツ暗記する」という作業を怠りがちです。
国語でいうなら、漢字や古文単語の学習。
単純な詰め込み作業を後回しにし、気がつくとテスト直前。
英語や数学の対策に追われ、漢字はテスト当日の朝にドリルを眺めて「…まあ、なんとかなるだろ」と、ノー勉に近い状態で本番に突入するケースが多々見られます。

「この子、漢字さえちゃんとやれば8割に乗るのに…」

という60点台後半の生徒が後を絶ちません。

中学生のうちは、国語に関して言えば「トップ層」と「その他」の違いは
漢字(に代表される暗記作業)をきちんとこなしているか否かでほとんど決まります。
読解力といった 能力的な部分では、あまり差が見られません。
みんなポテンシャルは高いので、やり方さえ理解してしまえば、ほぼ全員ができるようになります。
なので、あとは「漢字などを覚えるだけ」なのですが、それがなかなか難しいようです。

では、彼らは暗記が苦手か、覚えられないのかというと、そんなことはありません。
受験を潜り抜けてきた精鋭揃いです。おまけに若い。
一番吸収力がある時期に、漢字や単語ごときが暗記できないはずないのです。

 

暗記作業に取り組まない東海生には、共通点があります。

そんなに切羽詰まっていない。

…ということです。
危機感がない、と言い換えても良いでしょう。

国語の場合は特に、漢字で点を落としても読解である程度カバーできる人が多いため、そこまで壊滅的な成績にならないせいかもしれません。

しかし、実際に赤点を取ってしまうような「本当に壊滅的な成績」であっても、そこまで危機感を抱かない人もたくさんいます。
口ではいくら「やべー」なんて言っていても、心底ヤバいとは思っていないのです。

なぜでしょう。

理由は簡単です。
「俺はやればできる男だから」です。

これは、恐らく東海生全員が持っている感情ではないでしょうか。
同級生達が優秀で、劣等感を抱いているような人でも、心のどこかでは自分の能力を信じている。
本気を出せば漢字なんて覚えられる…ということを ちゃんとわかっているから、差し迫って危機感を持つことが少ないのだと思います。

自分の力を信じることは、とても良いことです。
ダメだダメだと思っていては、出来るものも出来なくなりますから。

ただ、「俺はやればできる!」…と思ったまま、結局何も出来ずに卒業してしまう人も大勢います。
潜在能力が潜在しっぱなしの人です。

知識を地道に身につけるという努力を怠ったまま、感覚に頼って文章を読み解くことを繰り返していると、非常にギャンブル性の高い受験生の出来上がりです。

知識が不十分だと、わかる単語を部分的に拾ってつなぎ合わせ、その隙間を想像力で補いながら、推理しながら読む…というやり方になってしまいます。どうしても。
そして、東海生の恐ろしいところは、そんな感覚頼りの読み方でもまあまあ点が取れてしまうところです。中には、謎の第六感みたいなものが研ぎ澄まされて、霊能者ばりに正解を当ててしまう人もいます。推理力が発達しすぎてコナンみたいになってる人もいる。もう、医学部に行かず探偵になった方がいいんじゃないかとすら思います。

こういう読解は、当たった時は高得点が取れるかもしれませんが、外した時は悲惨なことになります。
バクチではないので、センター試験本番で推理が外れて一年を棒に振るような真似は避けたいところです。

一方、格別読解力があるわけではなく、妙な感覚や推理力も持ち合わせていない人間は「単語や文法を覚えないと古文が読めない。現代文は漢字で少しでも点を稼がないと」という思考になります。従って、嫌々ながらも暗記に取り組まざるをえません。

最終的に、どちらのタイプが勝ち残るかというと。
能力差に関係なく、暗記を頑張った人が結果を残すケースが多いように思います。
必要な知識が身についてしまえば読解も楽になりますし、取りこぼしも減るので、地アタマの良いギャンブラーよりも当然高得点が残しやすいです。

ギャンブラーな人たちも、本当はわかっているはずです。
「そりゃ、暗記はした方が良い」と。
やるべきことを怠ったために、大変なことになってしまった先輩たちがたくさんいることも、彼らはちゃんと知っています。

けれど、なぜか「自分もそうなってしまう」という可能性には思い至らないようです。
「巻き返せる」と、どこかで思っているのですね。
本気を出せば、自分はできるのだと。

その本気をいつ出すのかが問題で。

ずっと本気出せない人が、結構たくさんいるのです。
せっかくの能力をずーっと発揮しないまま、高校を卒業してしまう人が。

だから、東海の先輩も言うのですね。

いつやるの、今でしょ。

…と。
あの言葉は蓋し真理でありましょう。
能力のある人ほど、実は「いつかやる、いつかやる」で時が過ぎてしまうものかもしれません。

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